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名古屋地方裁判所 昭和60年(ワ)125号 判決

主文

一  第一二五号事件について

第二一九号事件被告合名会社八千代館に対する亡訴外岡戸まんの持分金三万〇八〇〇円及び亡訴外伊藤光子の持分金一万円に基づく各残余財産分与請求権がいずれも原告に帰属することを確認する。

二  第二一九号事件について

原告の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は第一二五号事件被告伊藤正七、同伊藤雅恵及び第一二五号事件被告・第二一九号事件原告江崎弓代の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  第一二五号事件について

(第一二五号事件原告岡戸一子=以下単に原告岡戸という)

1 主文第一項と同旨

2 訴訟費用は第一二五号事件被告伊藤正七(以下単に被告正七という)、同伊藤雅恵(以下単に被告雅恵という)及び第一二五号事件被告・第二一九号事件原告江崎弓代(以下単に被告弓代という)の負担とする。

(被告正七、同雅恵、同弓代)

1 原告岡戸の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告岡戸の負担とする。

二  第二一九号事件について

(被告弓代)

1 主位的請求

第二一九号事件被告合名会社八千代館(以下単に被告会社という)は被告弓代に対し、別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)につき、持分移転登記手続をせよ。

2 予備的請求

被告会社は被告弓代に対し、金四一四七万一八八八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3 仮執行の宣言

(被告会社)

1 被告弓代の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告弓代の負担とする。

第二  当事者の主張

(原告岡戸の第一二五号事件の請求原因)

一  原告岡戸は訴外岡戸まんの長女であり、被告正七は岡戸まんの二女である訴外伊藤光子の夫であり、被告雅恵及び被告弓代は被告正七と伊藤光子との間の子である。

二  岡戸まんは昭和二五年一二月二〇日に死亡し、原告岡戸及び伊藤光子が岡戸まんを相続し、伊藤光子も昭和三七年一二月一二日に死亡し、被告正七、被告雅恵及び被告弓代が伊藤光子を相続した。

三  ところで被告会社は演芸場の経営を目的とする会社であり、岡戸まんは金三万〇八〇〇円、原告岡戸は金二万〇八〇〇円、伊藤光子は金一万円の各持分を有する社員であったところ、被告会社は、昭和二五年八月二五日、総社員の同意により解散された。

四  岡戸まんの相続人である原告岡戸は、昭和四〇年七月ころ、伊藤光子の相続人で、当時未成年者で同じ相続人である被告雅恵及び被告弓代の法定代理人親権者父であった被告正七との間で、次のとおりの合意(以下本件合意という)をなした。

1 岡戸まんの遺産分割協議として、岡戸まんの被告会社に対する持分金三万〇八〇〇円の持分に基づく残余財産分配請求権は原告が全て取得する。

2 伊藤光子の被告会社に対する持分金一万円に基づく残余財産分配請求権は原告が無償で譲り受ける。

五  しかるに被告正七、被告雅恵及び被告弓代は本件合意を争い、本件合意に基づく手続を履行しない。

六  よって原告岡戸は被告正七、被告雅恵及び被告弓代に対し、被告会社に対する岡戸まんの持分金三万〇八〇〇円の、伊藤光子の持分金一万円の各残余財産分配請求権は原告岡戸に帰属することの確認を求める。

(第一二五号事件の請求原因に対する被告正七、被告雅恵及び被告弓代の認否)

一  請求原因第一ないし第三項は認める。

二  同第四項は否認する。

三  同第五項は認める。

(被告正七、被告雅恵及び被告弓代の主張)

一  本件合意が仮りになされたとしても、被告会社が解散され、清算中である以上、合名会社である被告会社の社員である被告正七、被告雅恵及び被告弓代は持分を譲渡することも、退社することもできず、したがって被告会社に対する残余財産分配請求権も譲渡することできず、これに反した本件合意は無効である。

二  また本件合意1が岡戸まんの相続に関する遺産分割協議と認められるにしても、共同相続人である被告正七が未成年者である同じ共同相続人の被告雅恵及び被告弓代の法定代理人として分割協議をなしたものであり、客観的性質上、共同相続人相互間に利害の対立を生じるおそれのある行為であり、利益相反行為として無効である。

(右主張に対する原告岡戸の認否)

いずれも争う。被告会社が清算中であるとしても、他の社員がいずれも残余財産分配請求権の譲渡を承諾した以上、有効であるばかりでなく、本件合意は実質的には残余財産の分配に関する協議とみることができ、いずれにせよ有効であり、また岡戸まんの遺産分割協議は利益相反となるものではない。

(原告岡戸の反論)

仮りに右遺産分割協議が利益相反に該当するとしても、被告正七、被告雅恵及び被告弓代は訴訟提起まで本件合意の効力を認めていたのであるから、右主張をなすことは信義則に反する。

(右反論に対する被告正七、被告雅恵及び被告弓代の認否)

否認し、争う。

(被告弓代の第二一九号事件の請求原因)

一  第一二五号事件の請求原因第一ないし第三項のとおりである。

二  したがって、被告会社の残余財産分配請求権は原告岡戸が持分金三万六二〇〇円、被告正七、被告雅恵及び被告弓代が持分合計金二万五四〇〇円の各割合に基づくものであるところ、右被告三名は、昭和五九年一二月七日、商法一四四条に基づき、伊藤光子の被告会社の清算に関する権利を行使すべき者として被告弓代を選任した。

三  被告会社は本件土地を所有しているところ、本件土地上に第三者所有の建物が存し、換価は容易でないので、現物分割として持分の移転登記をなしうるものである。

四  然らずとしても本件土地の時価額は一平方メートル当り金二五万円を下らず、被告弓代は被告会社に対し残余財産分配請求権に基づき、その持分割合にあたる金四一四七万一八八八円の請求権がある。

五  よって被告弓代は被告会社に対し、残余財産分配請求権に基づき、主位的には本件土地につき持分移転登記手続をなすことを、予備的には金四一四七万一八八八円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から右支払済みまで商事法定利率である年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(第二一九号事件の請求原因に対する被告会社の認否)

一  請求原因第一項は認める。

二  同第二項のうち、被告会社の残余財産分配請求権の割合の点は否認し、その余は知らない。

三  同第三項のうち、被告会社の本件土地を所有していることは認めるが、その余は争う。

四  同第四項のうち、本件土地の時価額は知らないが、その余は争う。

(被告会社の抗弁)

被告会社の社員である原告岡戸と被告正七、被告雅恵及び被告弓代との間において、第一二五号事件の請求原因第四項のとおり、本件合意がなされたもので、右被告らは被告会社に対する残余財産分配請求権を有しない。

(抗弁に対する被告弓代の認否)

否認し、争う。

(被告弓代の主張とこれに対する被告会社の認否及び被告会社の反論とこれに対する被告弓代の認否)

第一二五号事件における被告正七、被告雅恵及び被告弓代の主張とこれに対する原告岡戸の認否及び原告岡戸の反論とこれに対する右被告らの認否と同じである。

第三 証拠(省略)

別紙

物件目録

名古屋市東区筒井一丁目一二〇一番

宅地  四〇二・三一平方メートル

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